2018年11月26日 (月)

Fear: Trump in the White House (Bob Woodward)

ボブ・ウッドワードの「FEAR」を、Kindle版で買って、この秋から帰りの電車で20分間読んできました(だいたい終わった)。ようやく日本語版も出回り始めたようです。トランプ政権に興味がある人には是非オススメです。

トランプのホワイトハウスで何が起きているのか、誰が何をやっているのか。徹底的に「中の人の話」から組み立てて、政策テーマに沿ったストーリー仕立てとなっております。辞める人は多いので、取材対象には困らないのかもしれませんが、さすがはウッドワード(リサーチャーは使っているようです)だけに臨場感ある記述です。

この春までの取材で書かれているので、スタッフが次々と入れ替わるトランプ政権では、この本の内容はもう昔の話に過ぎません。ただし、大統領の性格や働き方に今後も変化があるとは到底思えず、トランプ政権がどういう仕組みで、どういう決定方法なのか、これを読んでおくと理解度が大いに進むと思います。

読んでいて、いろいろ驚いたことがありますが、その一つは、ホワイトハウス秘書官で2月に家庭内暴力の疑惑で辞任したポーターが、トランプの暴走を抑えるということで、大きな役割を果たしていたこと。特に通商政策では、この人がホワイトハウスの通商問題会合の議長となって、ナヴァーロやロスを抑えていたというのはびっくりでした。秘書官というのは、特に掌握する政策領域はなく、大統領のスケジュール管理など地味な仕事と思ってました。もっとも、このあたりの記述は、間違いなく辞任したポーター自身がニュースソースと思われるので、そこは留意しておくべきかと思います。

他にも読みどころは満載です。冒頭にも出てきますが、大統領の執務机の上に置いてあったという米韓自由貿易協定(KORUS)の破棄を通告する署名待ちの公文下書き。これを勝手に作成してトランプの机の上に置くスタッフもいれば、見つけてそっと捨ててしまうスタッフもいるというのがトランプ政権。そして親分はKORUS破棄を口にするものの、破棄通知書を捨てられると、そのことはしばらく忘れてしまう。鉄鋼関税の時は、この前者のスタッフの方が前日夜に、翌日発表のスケジュールを押さえてしまい、後者は寝耳に水だったようです。

日米の貿易協議が年明けから始まるということになっていますが、こんなホワイトハウスとの直取引を避けて副大統領やUSTRを相手にしてきたのはまあ正解だったんでしょうね。


本筋と関係ないですが、この本はアメリカでは夏には発売されていました。アメリカのアマゾンでキンドル版を買った9月の時点で、既にアマゾン上ではスペイン語版とドイツ語版は発売されていました。日本語版は約3カ月遅れ。これだけの分量ですから、翻訳に時間がかかるのは無理ない。fxckだのshixholeだの、美しくもなく日本語にも訳しにくい単語も並んでますから。

では、なぜドイツやスペイン語の出版が早いのか。私の推定では、AI利用の自動翻訳で粗々の訳は大部分、瞬間的に終わったんだと思います。マンパワーを使ったのは恐らく仕上げのファインチューニングだけ。最近、グーグル翻訳で英独と独英を使いましたが、「ほぼ完璧」な出来映えでした。日英、英日翻訳では到底「商品として使える文章」にはなりません。自動翻訳で簡単に行き来できるようになった欧州系言語から見ると、日本語の壁は高いんです。情報の出入りも遅れるということです。

2018年11月 7日 (水)

戦い終わって

中間選挙が終わりましたです。まだ開票が終わっておらず、米東部時間7日午前6時(日本時間7日午後8時)の段階でCNNでは上院が共和51-民主45、下院が民主222-共和199ですが、この先書き込む時間はなさそうなので、メモしておきましょう。

最終盤のトランプ大統領の執念の遊説で、これは2016年のような大逆転が再現されるのではないかと下院でも共和党の勝ちを予想したのですが、見事に外しました。ざっと結果を見て、16年に逆転勝利をもたらしたいわゆるラストベルト近辺の州では、相変わらず共和党が強かった(民主はこの地域を奪還していない)ものの、投票率が推計47.3%(NHK報道による)と、中間選挙としては驚異的な投票者数を記録し、かなりの反トランプ票も掘り起こされたという印象です。改めて指摘するまでもないですが、今回の選挙は移民だオバマケアだのといった政策が争われたというより、「トランプか反トランプか」が最大の争点で、この点ではトランプ大統領の「自分を中心に世の中を回す」能力の高さにただただ驚嘆するばかりです。

CNNの出口調査をざっと見ると、やはりミレニアル世代、特に白人ミレニアルでの逆転が効いたという印象です。土地勘のあるニューヨーク周辺などの地域の票の出方を郡単位で見ていくと、16年に比べかなり民主票が厚い感じです。全国レベルで白人18~29歳の投票は今回、56-43で民主優位(16年は44-54、いずれも下院選の投票)。白人30~44歳も今回は48-48(16年は39-58)でした。16年に大統領選に投票しなかった人(今回の投票全体の8%)は70-28で民主党に投票していますな。

トランプ大統領としては、16年と同じやり方(煽り、暴言)で、支持層の動員に励んだわけですが、この手法は引き続き白人低学歴層を中心に確実に投票に結びついている一方で、反発する人たちも出てきたということでしょう。何しろ新規の支持層開拓はできないので、トランプ流選挙手法の限界も見えてきたという印象です。

一方で民主党も、下院は何とか過半数を抑えたものの、アッと驚く鮮やかゴール(選挙区勝利)はなかった。20年に向けた新鮮なニューフェースも登場しなかった。期待されたテキサス州のBetoちゃんも、老獪(若いけど)テッド・クルーズに惜敗でした。ナンシー・ペローシが勝利宣言しましたが、本当に彼女が下院議長になるのか。全くカタルシスはなく、ひたすら欲求不満の残る「勝利」だと思います。

最後にCNNの出口調査でなるほどと思ったところ。「今回の下院選で誰に投票するか、いつ決めましたか」という質問で、「この2、3日」は8%、「この1週間ほど」も8%、「1カ月前」が19%、「それ以前から決めていた」が63%。「浮動票が消えてしまった」と前回書き込みましたが、正にその通りでした。トランプが好きか嫌いか、これが多分、投票に当たって一番の基準なので、民主党と共和党のどっちに投票するか、皆最初から決まっている。この判断に影響を与えることは出来ない。出来るのは投票に行かせることだけ、という選挙戦でした。分裂して両極化するアメリカですが、これを戻すことはなかなかできないと思います。

2018年11月 5日 (月)

中間選挙まであと2日

超久しぶりの書き込みで失礼します。2018年9月から日本に帰国し、東京で働いております。

アメリカの中間選挙がもう2日後に迫ってしまいました。8月まで「明けても暮れてもトランプ」の世の中から日本に帰ってくると、当初は「何だ、この緊張感の無さは」とすごい違和感でした。でも9月に入るとやれ台風だやれ地震だと、東京では大した被害はありませんでしたが、「ああ、日本人は別のものと戦っているんだな」と何だか納得しております。ポピュリズムがどうの、ナショナリズムがどうのじゃなくて、もっとリアルな目の前にある災害。これが今の日本人の「戦う相手」です。

さて、その中間選挙。中間選挙としては異例の盛り上がりだと思います。煽っているのはトランプ大統領とメディアですが、「何だか2016年と同じ」という印象もあります。自身の女性問題とか、ロシア疑惑とか、娘婿の税金問題とか、いろいろ醜聞報道は出てきますが、実は一向に効いておらず、本人は過激な発言、ツイッターを続けています。大統領選挙でもないのに、「主役/悪役」の注目を一身に集めるのは流石としか言いようがありません。16年との違いは、大統領として「本当に実行できる」ことでしょうか。ホンジュラスから移民集団がアメリカを目指して北上となれば、平気で軍隊を派遣したりします。

まあ、有権者の方も少なくとも表面的には変わっていないという印象です。トランプが嫌いな人は16年の時も今も嫌いだし、トランプが好きな人も同様。この2年間で、トランプに対する態度にちょっと変化があったのは、エヴァンジェリカル(福音派)の人たちくらいでしょうか。この層は、2年前は「ヒラリーはダメ」なので「しょうがなくトランプ」という消極支持だったのですが、いまは積極トランプ支持に転じています。ニューヨーク生まれで伝統的な道徳観など露ほども尊重していないトランプ氏ですが、エルサレムへの大使館移転など、福音派から「よくやっている」という評価を得てしまいました。

ということで、今回も16年同様、「トランプ(共和党)は意外と票を伸ばす」という予感があります。最終盤での世論調査の共和党の盛り返しにも、そんな印象があります。ただ、そもそも中間選挙は投票率が低く(40%に達しないことが多い)、誰がが投票に行って誰が行かないのか、が決定的な勝負の分かれ目となります。だから、トランプもメディアもあんなに煽るわけですが。その中で一番注目したいのは若い世代(ミレニアル世代)の動向ですが、テイラー・スウィフトがインスタグラムで呼び掛けるだけで、ナッシュビルの選挙人登録が急増したなんてニュースを見ると、反トランプのエネルギーも溜まっているんだなとは思います。ただ、この人達、本当に投票に行くのかは大いに疑問ですよね。選挙人登録はネットで出来ますが(少なくともNY州はそうでした)、投票は自分でカラダを動かしてもらう必要があります。ミレニアムの人たちが苦手とすることです。

ま、大胆な予想ですが、上院は現在51議席の共和党が少し議席を増やすでしょうが、接戦となっている下院も共和が過半数を守るのではないでしょうか。「投票に行く」強いモチベーションがあるのは、民主支持層では、あのサンダース型の「民主社会主義」を主張する人たち。前回16年は盛り上がらなかった黒人、穏健民主の人たちが今回、「反トランプ」で立ち上がるということはないんじゃないかと思います(経済絶好調だし)。

2017年9月28日 (木)

ドイツ総選挙のレビューと反省

ドイツ総選挙。プレビューを書いたので反省含めレビュー。メモのみ。
 1)事前予想とかなり違ったのはCDU/CSUの得票率。3~5ポイントくらい低かった。
→昔のドイツの選挙は事前世論調査とほとんど変わらないことが多かったが、シュレーダーあたりから、このくらいのポイントで変動するようになった気がする。東独有権者も加わって浮動票が増えたせいではないかと推測していたが、ドイツ全体の有権者の気質もかなり変化している。今回も事前Briefwahlは前回(23%)を超えたもよう(まだ公式数字がない)。

 2)AfDは予想の上限か、それをちょっと上回った。
→この「極右」政党については、やはり自分として勉強が足りなかった。昔のネオナチではないのだ。出口調査を見ると比較的万遍なく得票している。東独で多いのは想定内だが、年齢層としては働き盛りの30~60歳くらいの得票率が高いのが興味深い。一方でCDU/CSU、SPDは、高齢ほど支持率が高く、既得権を守る「シルバー民主主義の党」になりつつある感。このあたりにある種「AfDの力強さ」を感じてしまう。
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 3)このAfDの共同代表、フラウケ・ペトリが当選後に党離脱を表明。小選挙区で当選しているからできる芸当だが、こういう脱党はドイツ政治であまり見たことがない。選挙区当選して一国一城の主になる日本の政治家みたいである。こういった所にも、今回の選挙の「ドイツの戦後の枠組みが壊れていく感じ」を感じる。ペトリ氏は恐らく「他党と連立できる右派政党」を目指すのであろう。これができないと、どんなにAfDが議席を取ってもニッチで終わる。ちなみに今回、ペトリ氏がテレビでしゃべるのをじっくり聞かせてもらったが、「ドイツ政界にあるまじきテレビ映りの良さ」であるな。今ごろ気付いたのかと言われそうだが、かなりマジメに「あるまじき」のレベルだと思う。

 4)事前にメルケルを持ち上げて、「なぜ彼女がこんなに支持されるのか」みたいな特集をした向きは深く反省してほしい(しないだろうな)。

 5)小党が次々と5%条項を超えた中で、今回の選挙で一番フラストレーションを抱えたのはCSU。幹部はみんな「あのメルケルのせい」と思っているだろう。CSUは今後も選挙モード(18年秋バイエルン州議会)が続くので、メルケルとの修復は難しい。右サイドに空けてしまったスペースを、AfDではなく自分らで埋めるのが喫緊の課題。歴史的にはCDUと仲悪になったことは何度もある(FJS時代)。CDUとの共同会派を解消するというような事態が、少なくとも口には上ることになるだろう。会派内野党、連立内野党になるということ。他の連立相手よりも、メルケルには扱いにくくなる。連立組み合わせの計算では、仮に共同会派を解消してCSUが抜けると「CDU+SPD」「CDU+FDP+Green」のどれも過半数に達しないことも一応頭に入れて置いた方がいい。

 6)独仏の選挙が終わり、これでユーロ圏改革問題が動き出すはずだが、これもかなり難しくなってきた。「他国にカネを投げ捨てるようなことはしたくない」というドイツ世論に根強い南欧不信みたいなところに働き掛けていかねばならないのだが、そういうEU再建への期待感を自分は少し引き摺りすぎたかもしれない。マクロンが早速、EU改革案を出しているが、そのリストの長いこと。↓
https://www.ft.com/content/37c54ebc-a2ad-11e7-9e4f-7f5e6a7c98a2

 7)とは言え、全部ひっくるめて言えば、選挙結果はドイツにとって決して悪いことではないと思う。ドイツ経済は必ずしも独り勝ちでもないし、ドイツ政治は例外ではいられないということ。経済好調でも「忘れられた人」はいるし、「ドイツを取り戻す」というAfDのレトリックは支持を集めてしまうのだ。トランプ治世のアメリカで暮らす者としては、「ようこそ、大混乱の世界へ!」という気持ちもある。ま、次は10月の(とみられる)日本の総選挙とだけど、「解散というオウンゴール」しちゃった英国メイ首相や、「無敵と思われたが実際は大きく票を減らした」メルケル首相の残像がなかなか追い払えないところ...

2017年9月19日 (火)

ドイツ連邦議会選挙に向けてのメモ

 9月24日(日)はドイツの連邦議会選挙。2002年から続けていたサイトでも、ドイツの選挙については必ず一度は書き込んでいたので、17年も現場から遠ざかって、もう何も言うべきこともないのですが、思ったところをちょっとメモしておきましょう。かなりピンボケのところもあると思います。

 【メルケル盤石】世論調査ではもうCDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)の勝利は確実で、メルケル4選を妨げるものは何もなしという情勢。英語メディアでは「退屈な選挙」という見出しも見ましたが、まあBrexitとかトランプ当選とか、良くも悪くも大きなサプライズ選挙を経験した後では、メルケルの盤石な安定ぶりが目立つことになります。

 【連立相手は不透明】焦点は、連立相手がどこになるか。ずばり本命は自由経済派の小党FDP(自由民主党)だと思いますが、最新の世論調査を見ると、CDU/CSUと合わせて過半数議席を押さえられるかは、かなり微妙です。もし達しないと、①FDPに加えて緑の党も連立に入れる(いわゆるジャマイカ連立)②現行のSPD(社会民主党)との大連立継続-という選択肢がありそうです。

  ①は緑とFDPの相性は必ずしも良くないし、何より前例のない連立で、成立は容易ではないと予想される。②は数合わせでは圧倒的な数字になるものの、SPDとしては、このまま大連立を続けていると永遠にCDU/CSUのジュニアパートナーにされてしまう恐れあり。恐らく下部組織ではかなり上層部に不満がたまっていると思う。やはりSPDは、第一党を取って自前の政権を目指すのがドイツ憲政としても王道でしょう。そういうSPDをもう一度見てみたいし、今回は下野が正解と思う。

ちなみにメルケル政権の連立相手は、1期の2005~がSPDとの大連立、2期の2009~がFDPと連立、3期の2013~がSPDと、毎回入れ替え制となってます。

 【結構揉める連立交渉?】ということで、FDPと合わせて過半数議席を取れば、スムーズにCDU/CSU+FDPの連立が成立するんでしょうが、これで過半数が取れなかった場合は、メルケルが勝ったとはいうものの、政権発足はかなりの難産になるのではないかと思います。こうなった場合は、各党のフランスとの協調、ユーロ圏政策をめぐる対立が表面化したりして、実はドイツはあんまり盤石でも安定でもなかったというようなムードになる(特に金融市場)ことも頭に入れておいた方がいいかもしれない。

 【ユーロ圏政策が最大の争点】そういうわけで、今回の選挙でよく見ておく必要があるのは、ユーロ圏の将来。マクロンが共同債のようなものでユーロ圏各国の財政協力について提案する一方、メルケルも一度は「フランスの言うことを拒絶はできないだろう」みたいなことも言っている。ここで独仏協調が成立するかどうかは、ユーロ圏、EUの将来に非常に大きな意味を持つ。連立で財務大臣ポストがどの党に行くのか(まあ普通はCDU/CSUだが)、CDU/CSUだとしてもショイブレが留任するのか。この辺りをよく見ていくのが大事と思う。個人的には、年齢もあってショイブレ氏には、ここらで「ご苦労様」と告げるのがベストだとは思う。「鉄の財政規律」だけでユーロ圏が回らないのも自明。また、ドイツの財政黒字についても、いくら国民の支持があって「累積債務減らし」もいいけど、これをユーロ圏のために使うという方向もドイツに必要だと思う。ユーロ導入もそうだったが、ドイツが何かを投げ打つということがないと、EUのエンジンは回らない。まあ、もう回らない、回らなくてもいいという言説もあるけど、そうなるとEUは総崩れである。ただ、目下のところドイツ国内景気は非常にいい(ifo指数は過去最高水準)ので、財政を使うような景気対策は全く不要ではある。

 【AfD】この極右政党については、メディアで山のように書かれていると思う。私は実はあんまり関心ないのでよく知らない。90年代のネオナチはただのチンピラだったが、最近のドイツの極右はみんな大卒インテリだったりするし、今回は連邦議会に進出してしまうのだろう。ただ、ドイツという国は冷戦後半くらいから、こういう極右政党が台頭しては消えるの繰り返し。レプブリカーナーとか、いろいろあったが皆消えた。こういう勢力が、ドイツの政治に「ニッチの政治運動」以上の影響力をもたらすことはないと今でも考えている。一方で、こういう手合いが消えることもないだろう。ドイツという国は、政治のタテマエの圧力が強く、「ナショナリズム」がやや極端に否定されているので、どうしてもこういう捌け口が一定の支持を集めてしまう。今はインテリ層にも、それが広がっているのだろうか。そういう極右支持のインテリ層ドイツ人と会ったことがないので、そこだけが疑問点。

 【メルケルの4期目は安泰か?】これも実は分からない。今回の選挙戦で最大の謎は、年初にSPDがシュルツを首班候補にした時、わずか2~3カ月だけ、世論調査でSPDの支持が急上昇したこと(「シュルツ効果」などと言われた)。「首相は誰がいいか」の設問でも一時期、シュルツがメルケルを凌駕した。SPD急上昇の理由も、急下降の理由もイマイチはっきりしない。ドイツの世論調査で、特にショッキングな出来事もないのに、こんなに短期間で大きな人気の浮動が起きるのはめずらしい。死角がないように見えるメルケルではあるが、もしかしてドイツ有権者に何らかの「実はメルケルを待望しない気持ち」があるとするならば、4期目にそれが顕在化することはあり得るだろう。最近のドイツをよくわかっていなので何とも言えないけど、あの世論調査の数字は不気味であった。まあ、私は4期やったヘルムート・コールの悲惨な最後を見ているので、ここまでの多選にはどうしても警戒心を抱いてしまう。あくまで、そういう偏見がある人間の穿った見方ということです。

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2017年6月19日 (月)

ヘルムート・コールの逝去

 16日(金)にドイツ元首相ヘルムート・コールの死去が伝えられました。指折り数えると通算7年以上、コール治世下のドイツで記者として働いた計算だし、政治家のリーダーシップということを初めて考えさせられた人だし、まあ若かったのでこの人には結果的にいろいろ勉強させてもらいました。冥福をお祈りします。

 いろいろ評伝、追悼の記事が出ていて、全くその通りの業績で、あえて付け加えることはありません。歴史の扉が開いた一瞬の隙をとらえて猪突猛進でドイツ統一(正確には吸収合併)を実現し、その後は戦後ドイツの成功の象徴であるマルクを捨てて欧州通貨統合を実現。統一ドイツを欧州に結び(縛り)つけたのが最大の仕事でしょう。


 ただ日本では90年代から何故か繰り返し「ビスマルクと並ぶ宰相」といった表現が使われますが、これはアカンと思います。コール自身が何度も「あの1871年のプロイセンによる統一の過ちを繰り返さない」ことを強調しています。フランスと対立し欧州に戦争の種を蒔いた19世紀のドイツではなく、ドイツを欧州にビルトインさせることが、ライン河岸出身のカトリックであるコールの信念でした。ドイツの政治文化的には、プロテスタントのプロイセンの対極に位置していて、そんな対抗心を露骨に口にしたことはないが、そういうバックグランドは間違いなくあったと思う。

 この人の政治家としての絶頂は、壁が開いて1カ月半の1989年12月19日に、初めて東独に入ってドレスデンでモドロー東独首相と会談した後、Frauenkirche(聖母教会)前で押し寄せた東独市民の歓声に応えて演説した時でしょう。西ドイツでは後にも先にも一度も起きたことがない「ヘルムート、ヘルムート」の歓声が地響きのように伝わる中での演説は、闇の中に(この季節夕方は真っ暗)照らされるコールの紅潮した表情とともに、ドイツ戦後史のエモーショナルな場面の一つでした。いま手元にあるHorst Teltschikの"329 Tage" で89年12月19日を読み返してみたら、コールは詰めかけた東独市民(当然ながら西の戦後教育を受けていない)が、ドイツ国歌の1番(領土問題に関わるため戦後は禁止、3番が使われている)を歌ってしまうことを強く警戒していたようです(もちろん冷静だったんですよ)。ドレスデン演説の様子はここに映像がありました。http://www.youtube.com/watch?v=R78tUHFl_8k


 政治家が、押し寄せる民衆の声を直接受け止めて、ドイツ統一という目標を確信する瞬間でした。もちろん、当時のワタシにそんなことを想う余裕もなく、締め切り時間を眺めながら必死で両独政府の共同声明を記事にしていたはずです。

 もう一つ、コール在任当時の忘れられないシーンは、統一の夢が醒めて現実に戻り、東西ドイツ人の間の感情が急速に悪化した1991年、東のハレを訪問中に市民から(実際には地元のSPD政治家だった)生卵をぶつけられたとき。わずか2年足らずで東独の人のコールへの気持ちは一気に醒めちゃったんですな。この映像はテレビで何度も放映されましたが、コールが警備の鉄柵を乗り越えんばかりの勢いで、卵を投げた男に突っかかっていく。あの巨漢なのですごい迫力。周りが止めなければ、どうなってしまったかというような勢いでした。コールが秘めている闘争心を垣間見た思い。ここに出ています。http://www.youtube.com/watch?v=gbBUj_VRA-Y


 さてコールは、だれも党内に逆らう人がいないこともあって、その後も長く首相の座にありましたが、1998年9月の総選挙で敗れてしまいます。その後はCDUの献金スキャンダル(党資金を二重帳簿で管理)が発覚し、25年間党首として君臨したCDUから事実上追われてしまう(追い出したのはメルケル)。2001年には難病だったハネローレ夫人が自殺し、彼の人生は完全に暗転してしまう。在任中から必ずしも人気のある政治家ではなかったけど、献金スキャンダルの後に評価が回復することはなかった。


 この週末には、ドイツの新聞にいろいろ私生活に関する記事が出ていて、思わず読みふけってしまいました。再婚後に疎遠となった2人の息子とはここ数年は完全に音信不通で、長男氏は父親の死去をカーラジオのニュースで知ったそうです。慌ててクルマで父親宅(自分が育った家だな)に駆けつけたものの警備員に最初は制止され、やっと亡骸と対面を果たした後に記者団の前で「仮面の父親とその後妻」を告発したらしい。コール在任中は、当時のドイツのメディアの慣習として、私生活については殆ど報道されたことはなかった(ビルト紙のヨイショ記事だけが頼り)ので、こういった記事が実は今回一番面白かった(高尚な話にならなく恐縮です)。ドイツのメディアも変わったけど、コールも死んで歴史上の人物になったということでしょう。

 追悼の記事は英語圏、日本語圏でもたくさん出ていますが、家族から愛されず、統一の業績があっても多くのドイツ人有権者から恐れも敬意も抱かれない…。「情」の政治家として、在任中は一対一の会談で信頼を築く(ゴルバチョフもコールに押し切られた)のが得意だっただけに、晩年の寂しさを見ると心が塞ぐような思いもあります。合掌

2017年4月29日 (土)

J.D.ヴァンス「ヒルビリー・エレジー~アメリカの繁栄から取り残された白人たち~」光文社

J.D.ヴァンス「ヒルビリー・エレジー~アメリカの繁栄から取り残された白人たち~」光文社(関根光宏、山田文訳)

 昨年のアメリカのベストセラー本。大統領選の秋頃には本屋で山積みであったが、早くも邦訳が出ている。前回の当ブログで書いた金成隆一氏のルポは、トランプ当選の原動力となったラストベルトの「忘れられた」白人層を余所者として潜入取材した本だが、こちらはアパラチアのヒルビリー(山出しの田舎者)をルーツに、ラストベルトど真ん中で育った著者が、高校退学寸前から海兵隊→オハイオ州立大→イエール大ロースクールと社会階級を急上昇していく物語。内から見た白人貧困層のお話である。

 「トランプ大統領を当選させたアメリカ社会の一断面を知る」といった身も蓋もなく実利を求める読み方もできるが、登場するヒルビリー親族たちのキャラが立ちまくっていて、アパラチアとラストベルトを背景にした壮大なビルドゥングスロマーン(自己形成小説)の趣である。ジュリアン・ソレル(スタンダール「赤と黒」)とかフィリップ(モーム「人間の絆」)に匹敵する面白さであった。特に著者が真っ当な人生を歩み出すきっかけを与えてくれた祖母ボニーは圧巻。子ども時代に人を殺める寸前までいったこの婆さんは、怒れば皿も飛んでくる瞬間湯沸かし器の一方で、親族や近所の子どもには切ないほどに濃い愛情を注ぐ。アメリカにはまだ、こんな人がつい最近まで生きていたのである。

 崩壊した家庭で育ち10代で妊娠、それなりの賃金が稼げる仕事にありついても遅刻欠勤で自堕落に捨ててしまい、アルコールとドラッグに身を沈めるといった人生を送るヒルビリーの人たち。自力で這い上がった著者は、負の連鎖の原因が経済状況やら政治やら外にあるのでなく、内側にあることをはっきり認識している。実はワタシ、アメリカ東海岸に住んで毎日のように3K労働を厭わず勤勉に働くヒスパニック、子息の教育に全てを注ぐ中国系、インド系の移民を見ているせいもあり、本音を言わせてもらえばトランプ支持者の主張にはとっても気に入らないところがある。世間から見捨てられているという気持ちは分かるが、自助努力も決定的に足りないと思う。ご先祖が持っていたはずの「移民魂」はどこへいったんだ、と本当は言ってやりたい。

 ということで、当たり前だがメキシコ国境に壁を作れとか一切言わない著者には共鳴できる。はっきり言うと、メキシコや中国のせいにしているうちは、アメリカはラストベルトの問題を解決することはできないと思う。この著者のように、ヒルビリー魂を持ちながら、自分が育った環境を客観視もできる人に、ちょっと期待してしまうわけである。

 ちなみに著者が15分程度のスピーチで、白人労働者の貧困問題が何に起因し、どうすればよいのか語っているのが、ココに出ています(日本語字幕あり)。

 身も蓋もない欲で読み始めたのに、予想外の感動まで得られた本でありました。で、余談だけど、当ブログ前々回のルトワック「戦争にチャンスを与えよ」で出てきた「戦士の文化」が頭から離れない。そして、今回の本に登場するヒルビリーたち、まさに「戦士の文化」ですわな。身内がからかわれたらその瞬間に相手を殴り倒している、何かあればすぐにマグナムを握っている、十代で妊娠してその後も多産(ただし男も女も育児・教育には無関心)とか…。やっぱりこれ、結構厄介な「文化」だと思います、はい。

2017年4月28日 (金)

金成隆一「ルポ トランプ王国-もう一つのアメリカを行く」岩波新書

金成隆一「ルポ トランプ王国-もう一つのアメリカを行く」岩波新書

 朝日新聞に昨年掲載されていたこのルポは、11月の大統領選の前に電子版でまとめて読んでいた。その時の読後感は「こりゃトランプ勝っちゃうよ」であったが、その後に持ちかけられた賭では「やっぱりヒラリー」と言ってしまった。自分でホンモノを見てこなかった故の痛恨の判断ミスということであろう。

 本になったのをもう一度読んでも絶対面白いと思って読んだがやっぱり面白い。ラストベルトのトランプ支持者が、余所者の日本人記者に「よく来てくれた。よくぞ話を聞いてくれた」とばかりに話し出すところが印象的。トランプ大統領の言う「忘れられた男と女たち」がここにいる。アメリカの政治家、メディアからも忘れられていたような人たちを発掘し、選挙が終わる前に日本の読者に読ませてくれた功績は大きい。

 昨今、いろいろご批判のある当業界ではあるが、こういったお宝も出ているんである。これを選挙前に読んだか読まなかったかは、賭に負けたとしても大きな差である。ゆめゆめ「マスXミ」とかいうレッテル貼って十把一絡げに語ってはいけないぞよ。

 もちろん、選挙前に見逃してしまった方も、今から読んでも遅くはない。普通の人には支離滅裂と思われるトランプ大統領のツイッター発言だが、ここに登場する人たちに向けられていると思えば納得出来るところも多い。政策もその評価もこの人たちがカギである。ちなみにこの本、ニューヨークの日系K書店で買おうとしたんだけど置いてなかった。返本不可の岩波だというのはわかるけど、リスクゼロ経営ではみんなKindleへ流れてしまうわな。

2017年4月26日 (水)

ルトワック「戦争にチャンスを与えよ」文春新書

ルトワック「戦争にチャンスを与えよ」文春新書

 ルトワック氏は前回の中国に関する本が大変面白かったので今回もKindleで買ってしまった。そして、ヒマでもないんだけど、通勤電車で読んでしまった。

 「Give Peace a Chance」をひっくり返したタイトルは、戦略的逆説を唱える著者らしく秀逸。ただ、論文は1999年に発表されたということで、新しいアイデアではない。本文中でも繰り返し触れているが、ユーゴ内戦がこの考えを固めるきっかけだったと思われる。

 「戦争(武力紛争)が起きてしまったら、周りは介入せず、当事者に好きなだけ、疲弊するまでやらせてしまえ。それが平和への道だ」という考え。武力紛争におけるレッセフェール(自由放任主義)と言っていいだろう。この考えはわかる。日本の読者に遠慮しているのか本には出てこないが、最大の成功例は第2次大戦の日独との戦いであろう。無条件降伏まで容赦なく叩く、だれも止めるヤツはいない…。疲弊し尽くした日本人は今でも「戦争はまっぴら」と書いた憲法を守っている。日独とも戦後は平和国家として復興した。

 とは言え、この戦争における市場原理主義は、経済における市場原理主義が必ずしも成功しなかったのと同じで、やっぱりどこか無理もあると思う。そもそも国連はじめ、紛争における「規制機関」は、戦争が総力戦となってシビリアンまで大規模に命を奪われるような事態を防ぐという善意の発想に基づいている(確かに善意が逆効果となっているケースもあるだろう)。ただ、核やサリンが使われても、戦争を市場原理に任せておけばばいいと言い切れるのか。ということで、今回はやや真正直な反論としておきたい。

 この人の本にはいつも「ちょっと面白い表現」がある(前回はアメリカのトンデモ政治がもたらす「ファニー・トラップ」だったけど、今回の本では「戦士の文化」という表現が面白かった。学校でのイジメに暴力で対抗したところ、イギリスの学校では誉められたというのもいい話だ。私も昔、イギリスとアイルランドを結ぶフェリーの甲板で、子ども達10人くらいのすごいケンカ(アイルランドvsスコットランドだった)を目撃したことがあり、あんなのが平気で白昼に起きる「英国の戦士文化」はわからなくもない。
 でも、男は戦いを愛し、女は戦士を愛し、出生率も高いとか、そういう場所って今の世界だとイギリスではなく、イスラム圏、特にアフガンとかイラクとかの紛争地域に最もあてはまると思う。「戦士の文化」は心構えとしてはいいけど、実際には結構厄介なものだと思う。イギリスには、その戦士の文化を補う「紳士の文化」もあるわけだし。
 以上、とりとめのない感想でした。(了)

2017年4月 8日 (土)

トランプのシリア空爆(巡航ミサイル打ち込み)

 昨晩の米軍によるシリア空軍基地への巡航ミサイル打ち込みには驚きました。「アメリカファースト」で、世界の警察官はやらないと言ってたはずが、シリア・アサド政権の自国民へのサリン攻撃を受けて、「かわいい赤ん坊も殺された」と人道主義を前面30年余りに打ち出しての奇襲攻撃です。つくづくこの大統領に対しては「決めつけ」をしてはいけないと思いました。

 ただ一晩明けたところで見回してみると、やっぱりアメリカファースト、「国内政治でのポイント稼ぎ」の方が、シリアへの関与、化学兵器禁止や人道問題を動機としては上回っているように思えます。

 なにしろ宿敵ヒラリーさんが、ミサイル攻撃数時間前に出たインタビューで、「シリアの空軍拠点を空爆すべきだ」と言っていたほか、マケイン上院議員も直ちに支持を表明するなど、今回の爆撃は共和党国際協調エスタブリッシュメント、民主党対外積極関与派を一度に感激させることができました。オバマ前大統領の最大の失敗(レッドライン)を「オレが修正してやった」と胸を張れる上、政権発足以来シツコクいじられている「ロシアの友人」疑惑も一掃できます。国内政治的には、7日夜の浦和レッズ森脇が仙台戦でで見せたようなDF4人抜きです(一部にしか分からない例えで恐縮です)。

 一方で、外交面ではプラスマイナス混在といったところでしょうか。化学兵器を使ったヤツには報復ということで、中東全体に睨みが効く一方で、こんなに一貫性のない、言うこととやることがバラバラな政権では国際的な信頼は得られません。一応の支持を表明している同盟国も、奥歯にものが挟まったような言い方です。一方、日本の中東専門家のコメントなどを見ていると、「シリア情勢改善には全く役に立たない。混乱に拍車掛けるだけ」といったのが多かったですが、誠にその通りだと思うんですが同時に「無い物ねだり」じゃないかとも感じます。そんなにトランプさんに大きな期待を持っていたんでしょうかね。ま、中国、北朝鮮には「オレは恐いよ」と明確なシグナルを送れたのはプラスかもしれません(ミサイル攻撃最中だった習近平さんとのディナーの様子が全く漏れてこないですが、これこそ6日夜の最大のドラマだったはずです)。

 ということで、トランプさんは本気でシリアをどうしようとか、中東安定への関与とかはさほど考えていないと思う。このあたりは、ロシアも薄々察しているのではないかとも思います。ヘイリー国連大使が安保理で「さらなる攻撃の用意」と言っていますが、多分、これで終わりじゃないでしょうか。こういう奇襲は、きっとトランプ大統領の得意技なんでしょう。まさにunpredictable(予測不能)でした。余勢を駆って、幕僚間の内紛にも豪腕を振るうようです。バノン、プリーバスを配置換え(≓更迭?)との報道も出ていますね。

 話は全く別ですが、アメリカ国内の反応を見ていると、「反トランプ」の急先鋒だったような人でも、米国の対外関与や、アサドへの強い対応を求めていたり、化学兵器使用に反対だった人は、大部分が大統領のミサイル攻撃に支持を表明しています。「是々非々」という言葉があるにもかかわらず、日本ではこういうことは極めて稀だといつも感じています。アベ嫌いの人は首相が何をやっても反対だし、中国嫌いの人は漢文の授業まで廃止と言ってみたりする。こういう思考停止の言葉がニュースからあふれてくるような社会はよろしくないと率直に思いますよ。

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